癌蛇羅。
黄泉の統治していた都市。中枢の建物の最上階に黄泉と躯はいた。
目の前には蔵馬と…
「彼女は。俺の恋人だ」
「初めまして、です。よろしくお願いします」
柔らかく微笑んだ彼女は二人に向かいおじぎをする。
「、こっちが黄泉でそっちが躯」
「お噂はかねがね…」
そのの言葉に躯は顔をしかめる。
「噂だと?おい蔵馬なんのことだ?」
「あなたのことそのまんまですよ」
涼しい顔で答える。
「とやら」
今まで黙っていた黄泉が話しかける。
「はい?」
「お前は妖怪ではないな。人間でもない」
「はい…」
「黄泉。彼女は」
「蔵馬。自分で話すから」
は蔵馬を制し、黄泉と躯に向き直る。
「あたしの父は霊界の閻魔大王です」
「なに?霊界のだと?」
黄泉はうわずった声を出し、躯は目を見開いた。
「彼女が何者なんて関係ない。
別にあなたたちがどう思おうと俺にはなんの問題もないですしね」
「ただ…あたしが会ってみたいってワガママ言っただけなんです」
その姿はお互いがお互いをかばい合うように見えた。
「おいおい、勘違いするな。俺にもお前たちの関係などどうでもいい」
躯は苦笑してソファに身を預ける。
「飛影は知っているのか?」
「えぇ。には頭があがらないみたいで頼み事をするのが楽になりました」
蔵馬の言葉に躯は苦笑する。
あの飛影が霊界の、しかも女に翻弄される姿は想像つかないがこのの雰囲気ならば仕方ないとも思う。
躯自身もなんとも言えない穏やかな気分になっている。
そしてたぶん黄泉も――…
「蔵馬。俺もお前たちの関係など知ったことか。興味はあるがな」
「興味?」
「異種族も異種、霊界と魔界、今までの関係から言ってもいいとは言えんふたつの世界の者同士が恋人同士などと言う。
愉快じゃないか」
「面白がられるのは好きじゃない」
「そう怒るな。、茶のおかわりはいらんか?」
「あ…えと…頂きます」
黄泉は部下を呼び新しいお茶を運ばせる。
「信じられんよ。蔵馬の側に女がいるなど」
黄泉がなつかしむように蔵馬を見る。
「昔のお前は女に愛情など持っていなかったように思うがな。
来るもの拒まず去る者追わず、と言ったところかな」
「それが霊界の女に骨抜きにされたのか」
躯がおかしそうに笑う。
「彼女は特別ですから」
蔵馬は平然と言ってのける。
「なぜ俺たちにを会わせた?」
その黄泉の言葉と違い躯はわかっているぞと言った様子。
「これからも魔界に来る機会があるかもしれない。
その時は俺も側にいるつもりだが、もし貴方たちが彼女に何かしたら…分かりますよね?」
蔵馬の妖しげな微笑みを受ける。
「なるほど」
「わかったわかった」
蔵馬がを会わせた訳。
魔界でのの安全のため。
(魔界にひとりで来たりしないわよ。蔵馬がいないとね)
そこでも蔵馬が自分をただ魔界に連れてきたわけでないことに気付いた。
「」
「はい」
「…敬語はやめろ」
躯の言葉に黄泉も頷く。
「蔵馬とは旧知の仲だ。その相手なら歓迎しよう。いつでも訪ねてこい」
「黄泉さん…ありがとう」
「俺には蔵馬など関係ないが、うちの筆頭戦士がお前を気に入っているのであれば仕方ないな。
今度は百足に来い。魔界を案内してやろう」
「躯さん。ありがとう」
は満面の笑みを二人に向ける。
「躯さんはやめろ」
「えっ…と…じゃあ……躯…ちゃん?」
躯はガクッとずり落ち、黄泉と蔵馬は笑っている。
「よかったじゃないか。女同士仲良くやれよ」
「そうですよ、女友達なら当たり前の呼び方ですよ」
「き、貴様ら!」
躯の妖気が高まっていく…が
「ご、ごめんなさい!躯ちゃん!」
涙を浮かべたの一言に躯は戦意を失わざるを得なかった。
(気が抜けるぜ…その呼び方には)
躯は渋々その呼び方を許した。
蔵馬とは癌蛇羅で夕食をとり、人間界へ戻った。
「疲れた?」
「うん。ちょっと怖かったけど蔵馬もいたし友達も出来たし好きになれそう」
そういって微笑むを思わず抱きしめる。
「蔵馬?」
「嬉しいよ、好きになれるなら」
「うん、蔵馬の産まれたところだもん。黄泉さんや躯ちゃんとも仲良くなりたいな」
そのへんは少し複雑な蔵馬だがの魔界での身柄は安全になるだろうと安心した。
(黄泉と躯に気に入られればもし一人でいても襲われる確率は低くなるだろうしな)
「じゃあ、また明日ね。また魔界に連れていってね」
の部屋の前。
「ああ、また行こう。おやすみ」
「おやすみなさい」
軽く口付けると蔵馬は帰っていった。
は急いでベランダに向かい蔵馬の後ろ姿を見送り続ける。
「ありがとう。魔界に連れていってくれて」
(霊界人を魔界に連れていくなんてもしかしたら大変なことだったのかもしれない。
蔵馬がいつもより緊張してるように見えたのもそのためなのかも)
それでも会わせてくれた。
あたしの身の安全まで考えてたなんて。
「蔵馬のそんなとこ、好きだなぁ」
ふと、蔵馬が振り返る。
(聞こえた?)
というわけではないようで、もう中に入れと合図しているようだ。
は蔵馬に手を振って返す。
「やっぱり大好きだな」
また歩いていく背中をずっと眺めて幸せな気分に浸った。
その後の百足にて。
「飛影、今日蔵馬たちが来たぞ」
「たち?」
「黄泉と俺にを会わせに来た」
「なんだと?」
「なんだ、珍しく驚いているな。
どうも魔界でのの身の安全を確保しに来たようだ」
「フン。蔵馬らしいな」
「そうそう、お前。の尻に敷かれてるらしいな」
「なッ!?」
「それもわかる気がするぜ、なぁ飛影」
「違うッ!敷かれてなどいない!!」
「逆らえない雰囲気があるもんなぁ〜」
「聞け!躯!貴様おもしろがってるな!!!」
しばらくこのネタでからかおうと思った躯だった。
〜〜fin〜〜