城の噴水にスタツアしてきたユーリとムラケンの奇抜な格好に眞魔国の面々は驚いたようだった。彼らは全身真っ赤でムラケンにいたっては髭まで蓄えていた。
そう。12月になればあちこちに登場するサンタクロースの格好だった。

「へ、陛下?」

ギュンターでさえユーリに飛びつかない。だからあたしがタオルを渡した。

「その格好はなんだ…」

ヴォルフも遠巻きに見ている。唯一グレタだけが嬉しそうに父親に抱きついた。

「うわぁーアニシナの色だね」

そこで異世界三人組はその状況に納得がいった。赤は彼らにとって毒女を彷彿とさせるものなのだと。

「アニシナさんのコスプレじゃないんだけどね」

ムラケンが苦笑する。

「バイトしてたんだけどさぁ」
「渋谷がバケツに躓いてね。それより暖まりたいんだけど」

猊下の言葉に漸く我に返ったギュンターが湯浴みの準備に走った。

「もうクリスマスなんですね」

それまで黙っていたコンラッドがあたしの隣で呟いた。

「コンラッド、クリスマス知ってるの?」

ユーリ達をお風呂へと促す彼が肩越しに振り返った。

「見たことはありません。知識としては知っていますよ」

そういうと彼は歩き出した。

「くりすます、とはなんだ?」
「楽しいことー?」

ヴォルフとグレタにクリスマスを説明しながら部屋へ戻ることにした。



「クリスマスやろうぜ!」
「って渋谷がいうんだけど」

上がってきた二人はそうあたしに言った。

「陛下がやりたいって言うならやるしかないんじゃない?」
「陛下っていうなよ。何だよ反対か?」
「まさか。サンタの衣装もあるしいいんじゃない?騒ぐの嫌いな人はいないでしょ」

そこで三人でギュンターを見る。

「そそそそんな見つめないでくださいっ!!」
「駄目かギュンター?」
「フォンクライスト卿?」
「ギュンター?」

ぶふうぅ!!鼻血を噴いてギュンターが倒れた。

「いけませんよ三人でおねだりしちゃあ。ギュンターが壊れる」

気味悪そうにだけどコンラッドがギュンターを助け起こす。

「コンラッドは反対か?」

ユーリの言葉に彼はまさか、とにっこり微笑んだ。

「賛成です。その代わりとの時間をきちんともらえたらですが」
「いっつも無断でもらってるでしょ?」
「クリスマスはまた別です」

なんだかすっごく嬉しそうな顔してるのはどうしてかしら?

「本当はずっと二人きりで過ごしたいんですけどね」
「コンラッド、クリスマスってちゃんとわかってる?」

そりゃあたしもキリストの誕生日くらいの知識しかないけど。クリスマスはパーティしてケーキ食べたりくらいしかしないけど。
うち、仏教徒だし。

「知ってますよ。恋人同士で過ごすんですよね。夜はセック…」

ばちーん!!

「間違ってるから!!」

思わず頭はたいちゃったよ。でもでも何だかグレタの前では言っちゃあいけない言葉を言おうとしなかった?

「間違い?」

コンラッドは頭を擦りながらムラケンを見た。

「確かにそう言いましたよね。一晩中そうして過ごすんでしょう?」
「ムラケン!!あんたねぇ!!!」

ダイケンジャーは素知らぬ顔で口笛を吹いていた。…誤魔化し方、ベタ過ぎ。

「違うんですか?」
「…そ、そういうことする人もいるけど主旨は違うと思うの」
「じゃあ主旨はどうでもいいからそれでいきましょう」
「ばっ!!やめてよ子供の前で!!」

グレタは好奇心丸出しでやり取りを眺めていた。

「グレタ、痴話喧嘩は犬も食わないっていうからこっちに来なさい」

ユーリは僅かに頬を染めて愛娘を引き寄せた。

「とにかく、パーティだけして楽しもうってことでどう?」

あたしの提案にコンラッド以外は快く承知した。


ギュンターは乗せられると本当に仕事が速い。あっと言う間に会場の設営から料理の準備、楽団の手配など手早く動いた。
あたしとグレタとコンラッドはツリーの飾付け。ユーリとムラケンとヴォルフはプレゼントの準備。
それぞれの作業が急ピッチで進んでいく。

はなにか欲しいものありませんか?」

コンラッドは脚立に上ってあたしが渡した飾りをツリーに結びながら訊ねた。
次の飾りを手にしながら少し考える。

「今からなので大したものは用意できないですけど」

申し訳なさそうに眉を下げるコンラッドに首を振った。

「いらない」
「でもそれじゃあ…」
「こうしてクリスマスできるんだもん。物なんかいらないよ」

思い出だけで十分。

「コンラッドは?」
「俺ですか?」

自分のことは頭になかったらしい彼はしばらく考えていたけど諦めたようにため息を吐いた。

「思いつきません」
「一緒じゃない」

可笑しくて笑うあたしにコンラッドも笑った。

「物じゃなくていいなら、貴女が欲しいですけどね」
「……まだ言ってる」

少しだけ睨んでやると困ったように笑って脚立から下りてきた。

「だって本当ですから。がいてくれるなら何もいりません」

ぐいっと腰を引き寄せて唇が触れそうになる………

!コンラッド!終わったよー」

グレタの声に慌てて離れる。

「どうしたのー?」
「なんでもない!!」
「グレタはもう少し空気が読めるようにならないといけないね」

コンラッドは少女の前で腰を折り真剣に諭していた。


城中の人を広間に集め、ユーリサンタは満足そうにクリスマスについて語りだした。所々ムラケンにフォローされながら。
みんなが平等に楽しめるように見張りの兵も交代でパーティに参加していて、最高に盛り上がっていた。
クリスマスがどこまで理解されたかはわからないがこうして楽しそうな顔を見れたらそれだけで十分だ。

「嬉しそうですね」

隣にはいつの間にかコンラッドがいてグラスをふたつ持っていた。

「コンラッドは?」
「楽しいですよ」

グラスのひとつをに渡して自分のグラスを少し掲げて見せる。
もそれに倣いグラスを上げた。
カツンと音をたててグラスを合わせると少し含む。炭酸がしゅわっと口の中で弾けた。

「…これお酒?」
「軽いものを選んだつもりでしたが」
「うん。美味しい」
「良かった」

コンラッドは微笑むとまたグラスを傾けた。

「よおーしプレゼントだ!!並べー!!!」

いきなりの号令に兵士やメイドが慌てて並びだす。魔王陛下の命令だから必死。顔も心なしか緊張しているようだ。

「プレゼント配るんだって言ってたけど城中の人に用意したの?」
「みたいですよ。何が当たるかは知りませんがグウェンのあみぐるみも持って行かれたそうです」
「あ、それは欲しいかも」
にならいつでもあげているでしょう。グウェンもには甘いから」
「いくらあってもいいの」
「そういうものですか?」
「そういうものなの」

苦笑しながらコンラッドが窓の方へ目を向けた。

「コンラッド?」
「………雪だ」
「え?」

窓の外にはちらちらと白いものが舞っていた。

「行ってみましょう」

コンラッドに手を引かれてバルコニーに向かう。まだあたしたち以外雪に気付いた人はいなくてバルコニーは二人だけだった。

「こういうのホワイトクリスマスって言うんですよね」
「そうだよ。綺麗だね」
「そうですね」
「神様からの贈り物だね」

あっ、と思ったときにはコンラッドは笑ってた。

「…魔族に神様はないよね」
「クリスマスだって魔族向きではないんですが」
「うっ…」
「いいんじゃないですか?楽しければ。神とか人間とか魔族とか関係なく」
「そう思う?」
「ええ。楽しいことはみんなで騒いだほうが数倍楽しいって貴女も陛下も言うでしょう?」

そういうとコンラッドはまた空を仰ぎ見た。

「…
「ん?」
「プレゼントを俺にください」
「いいけどなに?」

コンラッドは空に向けていた目をあたしにやった。

「貴女を」
「……いい加減に間違った知識は捨てて」
「冗談ではなく、本気で」

コンラッドがあたしの髪を一筋手にして口付けた。

「魔族の俺が神に感謝することがあるとすれば、に逢わせてくれたことかな」

そんなこと言われたら胸が詰まる。

「俺に貴女をください」
「物じゃない…」
「わかってます。貴女は俺の大事な、愛しい人です」
「…あたしには何をくれるの?」

コンラッドを見つめれば彼は笑ってこう答えた。

「もちろん、俺のすべてを」


そっとパーティ会場から抜け出して、二人きりのクリスマス。
みんなと騒ぐのもいけれどこんな特別な日は貴方と一緒にいたいから。

「でも間違ってるんだからね」
「でもそうしたいと本能でわかってますよね」

そう言われると困るけど、ってあたしがえっちみたいじゃん!!
あたしの心を知ってか知らずか、くすくすと笑うコンラッドはそのままあたしを抱き寄せた。

「メリークリスマス、
「メリークリスマス、コンラッド」

そしてそっと唇を合わせた。



〜〜fin〜〜