<第六話>
愛していると、告げてもいいだろうか?
君に、俺を受け入れて欲しいと思うのはいけないことなのだろうか?
抱きしめたぬくもりを離したくないと願ってはいけないのだろうか?
「……」
硬直したように微動だにしない彼女の耳元で囁くと、僅かに体が跳ねた。
愛しくて、想いが止められなくて、半ば投げやりな気持ちだった。
路地から外れた小さな広場にはひとつのベンチがあるだけで何もなかった。
少し前まで子供が遊んでいたのだろう。玩具が散らばっている。
「を独り占めしたい」
こんなこと、彼女を困らせるだけだとわかっているのに勝手に言葉が出てくる。
「が…」
そっと体を離して顔を覗き込むと、漆黒の瞳が揺れた。目が合うと驚いたように目を逸らそうとしたから慌てて顎を掴んで自分に向けた。
「あの?…コンラート様?」
声が怯えていた。
それに胸の辺りが針で刺されたように痛むが、もう止まらなかった。
止めたいと思うのに、口が勝手に言葉を紡ぐ。
「そばにいてくれ」
「え?」
呆れるほど愚かで、子供のような独占欲を恥じても自分に嘘はつけない。彼女が欲しくて欲しくてたまらない。
このままでいいなんて、もう思えない。
だから―――…
「君を愛している」
ゆっくりと、噛みしめるように言葉にした想い。少しだけ、満足した。
だが、その後訪れた沈黙にはその満足感などなんの気休めにもならなくて、格好悪いけれど耐えかねて、恐る恐る覗き込んだ彼女は表情すら変えていなかった。
「聞こえた?」
心配になってそう訊ねると、困ったような笑顔を返された。
「冗談を、……仰らないでください」
下に向いた顔は、拒否を示していると思った方がいいのだろうか?
彼女を永遠になくしてしまうんだろうか?
冗談などではないのに。本当に君を愛しているんだ。
「冗談ではなかったんだが……嫌だったかな?」
「嫌などでは」
はっとして上に向いた瞳は、切ないほど綺麗だった。
「すまない。こんな聞き方ずるいな」
主を拒否できるはずもないのに。彼女は俺が望めばなんだってするだろう。
まあ、心まではくれないだろうが。
「を一人の女性として愛している。本当だ。冗談なんかじゃない」
心をこめて、精一杯、この想いだけでも伝えよう。それでいいなんてこれっぽっちも思ってないけど、思えないけど、自分の想いより彼女の方が大事だ。
彼女が自分のせいで苦しむなんて、望まないから。
「俺が嘘なんか言ったことないだろう?」
彼女の困ったような笑みが崩れる。
「ごめん。もう、言わないから。……だから最後にもう一度だけ言わせて欲しい」
ありったけの想いを込めて、伝えよう。
「を愛している。…心から」
とうとう、泣かせてしまった。
瞳から大粒の涙が零れた。困って、その涙を払いながら笑った。
気にするなという意味を込めながら。
「ごめんなさい…」
「謝る必要なんてないんだ。俺が、勝手に」
「違うんです…」
懸命に涙を堪えながら、何かを伝えようとする。きっと俺を傷つけないように言葉を選んでいるんだろう。
「優しい子だね」
そう言うと何度も首を振った。
「お許しください」
「ん?」
彼女がいつの間にか握りしめた拳が震えていた。
「コンラート様を、お慕いしてます」
「え?」
深く息を吐き、続けた。それは本当に信じられない言葉だった。
「わたし、コンラート様を、わたしは………好き、です」
「……え!?」
「ああもう、何言ってるんだろう。ええと、あの、わたし、コンラート様が好きで」
最後まで聞かず、抱きしめた。
「こんなこと、言ってはいけないって思ったのに」
「嬉しいよ」
「ごめんなさい」
「どうして……。謝ってほしくない」
「いいえ…、いいえ。わたしは言うべきじゃなかった。なんてこと」
「!」
少しだけ声を荒げて、彼女の肩を掴んで言葉を止めた。
「俺は嬉しいのに。君が俺を好きでいてくれて嬉しいのに。君は違うのか?俺の気持ちは迷惑でしかないのか?」
「そんな…こと………あるわけないです」
「じゃあどうなんだ?君は今、どう思ってる?」
祈るような気持ちで彼女の答えを待った。頼むから拒否なんてしないでくれ、と。
俺を拒まないでくれ、と。
なにかと葛藤するかのように苦々しげな顔をして、未だ肩を掴んだままの俺の手首を彼女が掴んだ。
「…?」
「嬉しいです」
か細い声は、今度ははっきりとしたものになる。
「コンラート様のお気持ちはとても嬉しくて、わたし…」
「迷惑じゃない?」
頷く彼女がとても愛しくて、泣きそうになる。
「愛してる」
今まで迷いに揺れていた彼女が俺の想いに応えるかのように、優しく微笑んだ。
「わたしも、愛しています」
はにかんで下を向こうとするの顔を、両手で包んでそっと口づけた。