<第五話>
照れたように俯く様子にコンラートは緩む顔を抑えようともしなかった。隣に立つヨザックが口笛を吹く。
「変じゃないですか?」
もじもじと体を縮こませるに二人して慌てて首を振った。
「よく似合ってる」
「どこぞの令嬢って感じだねえ」
「じゃあ着てきた服は包んでくれ」
「え!?コンラート様!?」
「お手をどうぞ、お嬢様」
手を差し出されても躊躇する。こんな分不相応な衣服に身を包んでいては申し訳なくて笑えない。
「言ったでしょ?我儘に付き合ってやってくれって。そのお礼だって」
「ヨザック様、でも」
「ちゃんが笑ってくれたら、こいつはそれだけで嬉しいんだって」
「知った風な口を。…だが本当だよ?」
跪き、手にキスをされた。
「君の笑顔が見たいんだが?」
茶色の瞳に浮かぶ銀に吸い込まれそうになる。
「……ずるいです」
「ん?」
「…そんな顔をされては、断りにくいじゃないですか」
少しだけ首を傾げて、それから吹き出した。
「じゃあが頷いてくれるまでこうしていよう」
「やめてください!」
コンラート様はそう言うと、また唇をわたしの指先に寄せた。
「じゃあ大人しく貰ってくれる?俺からのプレゼント」
「わかりました!お願いですから離してくださいっ」
「嫌だ」
にっこりと笑い、そのまま手をとられる。
「いい加減気を遣えよ?ヨザック」
「わーかってますって。俺もそうそう暇じゃないんだから」
「え?ヨザック様、帰ってしまわれるんですか?」
わたしの言葉にコンラート様は面白くなさそうな顔をされ、対照的にヨザック様は楽しそうな顔をする。
「なーんだ、ちゃんったらそんなに俺といたい?」
「え?えっと、その」
ヨザック様と一緒にいるのはすごく楽しいし、いろいろな話も聞かせてくださる。こう言ってはなんだけど退屈しないし、安心できる。特に自分のコンラート様への想いを自覚してからはその存在がすごくありがたい。
「ああ、やっと帰るのか。そうかそうか」
「うわーぁ、なに?その嬉しそうな顔」
「そんな顔しているか?そう見えるか?」
「はいはい帰りますって。ちょっと様子見についてきただけだし」
ひらひらと手を振って離れて行くヨザック様が思い出したように振り返り、叫んだ。
「襲うなよー?」
「あの馬鹿……!」
眉を顰めて、忌々しげに睨み付けるコンラート様から逃げるようにヨザック様は人ごみに姿を消した。
わたしは、といえば、恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかって、俯いた。
「、行こう」
「…はい」
繋がれた手を見つめるしか今はできない。
「あ!あのコンラート様」
「ん?」
「あれはなんですか?」
「ああ、あれは…」
最初は気まずかったけど二人で歩いて、ぽつぽつと会話をするうちに少しずつ緊張もほぐれだした。
「たまにはこうして出かけたい」
コンラート様がぽつりと呟いたその言葉に、反射的に頷いてしまった。
「、本当に?」
「も、申し訳ございません」
願ってはいけないこと。それをコンラート様に伝えるなどあってはならないのに。
「嬉しいよ」
「え?」
自分の愚かさが恨めしくて、泣きそうになる。
「俺は、を……」
「コンラート様?」
きつく握られた手に思わず顔を上げると苦笑するコンラート様がいた。
「どうして泣いてるんだ?」
自分の意思とは無関係に流れる涙をコンラート様が指で拭った。そして、その目元にコンラート様は唇を……
「っ!?」
目元に落とされた口づけに驚いて涙が止まった。思考も、時間も、なにもかも全てが固まったように動かない。
「?」
腰砕けで崩れ落ちたわたしを慌てて受け止めて、ほっと溜息をついた。
わたしはといえば、口づけの余韻で自分が今、コンラート様に抱きかかえられていることなんてわかってなかった。