<第四話>
全身の感覚が右手に集中する。寒くもないのに震えてしまう。そんなわたしを見て優しく微笑むから更に緊張してしまうの。
が迷子にならないように、なんて手をとられてどんなに驚いたか、どんなに幸せかコンラート様は知らないでしょうね。
「お二人さーん。俺もいるんですよー?」
後ろから間延びした声がして、わたしとコンラート様の間から顔を覗かせたのはヨザック様だ。
「うるさい。勝手についてきたんだろう」
「コ、コンラート様、そんな」
「もっと言ってやって」
「に触るな」
道の真ん中でわたしを引き寄せヨザック様から離す。二人でなにやら言い争っているけれど、わたしはあまりにコンラート様が近くてそればかりが気になっていた。
「さ、?あんな馬鹿はほっといて行こう。……?」
「は、はい!」
顔が赤いのだろう、コンラート様が笑っている。
「……笑わないでください」
「可愛いなと思ったんだ。本当だよ?」
「もう!からかわないでください!」
恥ずかしくてたまらないっていうのに。その様子にまた静かな笑い声が聞こえた。
「ちゃんに向ける優しさのほんの少しだけでも俺にくれない?」
「ない。というかまだついてくるのか?邪魔なんだが」
「ちゃんを独り占めなんてずるいぞー?」
「あのな?」
つながれた右手が強く握られた。そしてコンラート様が口にした言葉は――――
「は俺のものだから」
「へーへー。わかりやした」
複雑になった…………
嬉しいと思わなかったわけじゃない。でも、同時に胸が苦しくて息ができなくなりそうだった。
《俺のもの》
その言葉、コンラート様はどんな意味で使われたのですか?
複雑な気持ちを悟られまいと笑みを浮かべた。なにも気付かれないように、なにも気付かれたくなくて。
「で?どちらに行かれるのですか?」
「ん?」
周りの好奇な視線が気にならないわけではない。本当は、繋がれたこの手を振り解いてしまいたい。
ううん、誰もいなかったらいいのに。そうしたら何も考えず、この手の温もりに浸れるのに。
「服をね、買いに行こうと思うんだ」
「服ですか?珍しいですね。いつもならお屋敷に商人をお呼びになるのに」
「うん。たまにはいいかと思ってね」
にっこりと微笑まれてつられて笑う。
「へぇー?女物の服をー?」
「………ヨザック…」
半目で睨みつけるコンラート様にいたずらっ子のように笑ってわたしの背中を押した。
「はいはい、入った入った、目的はちゃんなんだろ?」
「わたし!?」
「なんでもおねだりするといいよ。ご主人様はお優しいから」
入った途端、メイドには似つかわしくない雰囲気で、足が止まった。
そんなわたしをコンラート様が振り返る。
「俺が選んでもいいかな?」
「そんな!結構です!」
聞こえているのかいないのか、奥へと進むコンラート様を追いかけた。
「いいから付き合ってやってよ」
「ヨザック様!でも」
うろたえて振り返ると楽しそうなヨザック様が目に入った。
「見てやって。ほら、嬉しそうなあいつの顔」
「え?」
優しい表情で服を選ぶコンラート様がそこにいて、目の奥が熱くなった。
「今日はあいつの我儘きいてやって?」
「コンラート様が我儘なんて」
「言ってるだろう?買い物に付き合ってほしいとか、困っている君に服を贈らせろとか」
困るのは、嬉しくてたまらない心を抑えきれないから。
「。こっちにおいで」
柔らかく笑って手招きするコンラート様になんとか笑って近寄った。
「まったく、じれったい奴らだねえ」
柱に寄りかかり、二人を眺めながらヨザックは笑った。お互いに特別に想っているのに、もどかしいほどお互いの想いには気付いてなくて。
主人と使用人、うまくいくとは思えないが、だけどコンラートには彼女が必要だと思う。
幸せになってほしい、そう願ってはいけないだろうか?