スタツアなるものを経験し、眞魔国にきてしまったあたし、早瀬。
ここでは黒髪に黒い瞳は重宝がられて皆が親切にしてくれる。
「退屈……」
だけど何のためにこっちに呼ばれたのかわからないあたしにやることもなくて暇を持て余していた。
「ユーリは帰っちゃったしギュンターもグウェンダルも仕事があるしヴォルフラムは朝からいないし…」
後は……コンラッド?
人の良さげな笑顔の彼を思い出した。
「でも彼もいろいろ忙しいみたいだしなぁ」
誰かに構ってもらおう、というのは止めてお城を探検しようツアーに行くことにした。
「う〜ん足元がスースーする」
今日の服装は地球でいう黒いメイド服。
ミニって有り得ない!
地球じゃ絶対に着れないね。
「えっと、あっちがユーリの執務室だったよね。こっちの方に行ってみよー」
長い長い廊下をずっと歩いていくと
「あ、いい匂い」
美味しそうな匂いにつられて扉を開ける。
「厨房だ」
広い厨房にはコックさんが忙しく動いていた。
「……!!さま?どうしてこのようなところへ」
様子をボケーっと見ていたあたしにひとりのコックが気付き、声をかけてきた。
「お疲れ様です。お昼の準備ですか?」
「ははははい!!板長ぉ〜!」
慌ててそのコックさんは一番偉いと思うコックさんを呼んだ。
あたしつまみだされる?
「こんなとこまで探検ですか?」
板長は帽子をとり恭しく頭を下げる。
「はい。すいませんでした、お邪魔して。美味しそうな匂いがしたからつい…」
そういうと板長はガハハと笑った。
豪快な親父さんといった感じで人の良いおじさんだと思う。
「よく陛下もいらっしゃいますよ」
そういってあたしの手にドーナツ(こっちでは何ていうのかわからないけど)を渡してくれた。
「歩き回るならお腹が減るでしょう。まだ熱いから気を付けて」
「ありがとう!」
皆に手を振って厨房を出た。
さて、次はどっちに行こうかな。
「おい、そこでなにしてる?」
低い声がすぐ後ろからしてドーナツの包みを落としそうになった。
「グウェン!びっくりした〜」
「……」
「な、なんですか?」
凝視されるとちょっと怖いかも。
「その服」
「え?あぁこれ?似合わないよねぇ〜ミニスカだしさ」
「いや…そんなことはない」
「え?」
今、誉めてくれた?
「なんだそれは」
「あ、食べる?」
包みからひとつドーナツを取り出して渡す。
「もらっちゃった」
「そうか…城内ならば大丈夫だと思うが迂濶にもらいものを口にはするなよ」
「わかってます!」
ギュンターにもうるさいくらい言われたしね。
「ねぇねぇグウェン。あっちは何があるの?」
「ん?あっちは使用人の部屋がある。こっちの廊下を進んで上に行けば書庫があるぞ」
「あたし入れる?」
「入ってはまずいところには鍵をかけている」
そこへグウェンダルを呼びに秘書が駆け寄ってきた。
「城からは出るなよ」
「わかりました!」
おどけたように敬礼をして返すと眉間の皺が一本増えた。
心配しなくてもいたずらしませんって!!
グウェンと別れてまた探検再開!
「はぁ!」
「せやっ!」
兵士たちの訓練場かな。
ん?あのオレンジ頭は
「ヨザック〜」
「あら、さまじゃないですか」
「訓練中?」
「いや、教えてただけ。…それうまそうっすね」
「あげるよ」
「ありがとうございます。姫さんはどうしてここに?」
「お城探検!ねぇあたしもなんか訓練したい〜」
ヨザックはブンブンと首を振った。
「姫さんは守られてりゃいいんですよ」
「そんなのやだ!あたしは魔王陛下みたいな大物じゃないんだから。
それにね自分の身は自分で守らないと最近の日本じゃ生きていけないのよ!」
ヨザックは溜め息をついた。
でもその瞳は優しく笑っていたような…
「敵いませんねぇ〜でも姫になんかあったら俺が怒られますから隊長に言ってみてください」
「コンラッドに?」
だめって言われそう…
「馬屋のとこにいますから」
「わかった。暇な時はあたしと遊んでね」
「それも隊長がいいって言ったらね」
「コンラッドは関係ないよ?」
ヨザックはそれ以上何も言わなかったから手を振って馬屋に向かう。
「コンコン、コンラッド〜」
馬屋を覗くと愛馬の手入れをしているコンラッド。
「どうしました?」
「訓練したいから許可ちょうだい」
「は?」
ノーカンティがブルルと鳴いた。
「後ででいいよ。外でおやつ食べてるから」
「もう終わりだからすぐ行きます」
ポカポカ陽気の中ですっかり冷めたドーナツを頬張る。
「美味しい〜」
一個はコンラッドにあげないとね。
「姫、お待たせしました」
コンラッドが隣に座る。
「はいあげる」
「どこでもらったんです?」
「板長がくれた」
モグモグ食べるあたしに微笑んでコンラッドも一口運ぶ。
「あなたもユーリも高貴な身分なのに民と対等に付き合えるんですね」
「あたしは一般人だってば」
「こっちでは違うんです。まぁそんな方だから民もついてくるんでしょうが」
くすっと笑うコンラッドに少し見とれる。
「で、訓練って?」
「うん。あたしも自分の身を守るくらい自分でできなきゃ。そんな守られるほどの人物でもないんだし」
「姫はそれほどの人物ですよ、俺の中では特に」
「違うよコンラッド。あたしはどこにでもいる女子高生。それに守られるのは性に合わない」
「俺にはたったひとりの姫ですよ?」
コンラッドめ!聞いてる方が恥ずかしいよ。
「〜〜とにかく!ヨザックはコンラッドの許可がないとだめって言うの。だから許可ちょうだい?」
「だめです」
「コンラッド〜」
「だめ」
「お願い!」
「拝んでもだめ」
「コンコン〜お願いします」
「コンコン?」
「可愛いでしょ?コンコン」
「可愛いのは姫です」
「きっぱり言うな!恥ずかしい!」
どうしてコンラッドは恥ずかしいことを言っちゃえるんだろう。
「ちなみに誰に教わるつもりですか?」
「え?誰に?…ヨザック?」
「だめです」
「なんで〜〜!?」
「じゃあ俺が教えてあげますよ」
「ホント?」
「はい」
なんだか笑顔が妖しいんだけど
「わわっ!?」
気付けば押し倒されてコンラッドが馬乗りになっていた。
「さぁ抜け出てください」
「え??」
もう訓練始まってるんだ!
「10数えるうちに抜け出ないとキスしちゃいますよ?」
「なッなんだとー!!!!!!!!!」
「いーち」
「コンコン嘘よね?」
「にーい」
「コンラッドさん?」
「さーん」
ぎゃああああ!!(よーん)
この人本気だ。
目がマジ。(ごー)
「ろーく」
「ちょっと!はずし方も教えてくれないの!?」
両手をがっちりと掴まれて(それも片手で)足で腰を挟むようにして押さえられ
「なーな」
コンラッドは楽しそうにあたしの髪を撫でている。
「はーち」
手は頬に添えられ
「きゅーう」
暴れるあたしにコンラッドはびくともしない。
「か、顔!顔近いってぇぇ!!」
「じゅう」
「ん……!」
本当に唇を塞がれてしまった。
ポンと彼氏の顔が浮かんで、すぐ消えた。
消えた…?
消えたってどういうこと?
「?」
「……なにすんのよ―!!!」
ゴチン!
頭突きをして怯んだ隙にコンラッドから抜け出す。
「いたた。やりますね」
「う〜…痛いよぉ」
ポロポロと涙が溢れる。
頭突きの痛さじゃない。
コンラッドとのキスと彼氏の顔、それでもない。
最低だ。あたし。
「大丈夫ですか?あぁ膨れてる。すぐ冷やしましょう」
「優しくしないで…」
される資格ないの。
「大事な姫に傷が残ったら困ります」
コンラッドはあたしをお姫様だっこしてお城へと戻っていく。
「泣いたも可愛いですよ」
「バカ!!」
「すいません」
ねぇコンラッド
どういうつもりでキスしたの?
からかってるならもう止めて
お願い
気付かせないで
〜〜fin〜〜