さようなら眞魔国 Y
「最近よく手伝ってるなぁ」
「高いおねだりがあるんじゃない?」
夕食の片付けを手伝ってるあたしに両親からそんなセリフが。
確かにマメに手伝う方じゃなかったけどね。
「おねだりなんかないって。たまにはって思っただけだよ」
タオルで手を拭きながら答える。
「ずっと続けばいいけどね。ありがとうもういいからお風呂入りなさい」
「そうする」
バスルームに向かうあたしの後ろでは両親の楽しそうな話し声がする。仲いいんだよね。
家の雰囲気がいいのはいいけど反面切なくなる。
でも前よりは泣かなくなったかな。
諦めたとかじゃないしコンラッドを忘れたわけじゃない。
なんだか妙な確信がある。還れるって。
それに呼ばれてる感覚がある。
耳で聞こえるんじゃなくて、なんて言ったらいいのかわかんないけど…
バスルームの扉を開けながらドラマの始まる前には出ないとなんて予定を考えてた。
「うち、バブルバスだったっけ…?」
そんな機能つけてない筈なのに小さな気泡が浮かんでいて、湯が段々と渦巻いていく。
それがあっちへの入り口と気付くのにそんなに時間はかからなかった。
だから迷うことなく湯に手を入れた。
そして気付いた。
「あたし裸だった…!」
慌ててバスタオルを取ろうと体を引こうとしたけど強い力で引き込まれる。
そしてそのまま全身が湯にのまれた。
気付いたのはやっぱり自宅じゃない場所で、一般家庭用とは思えない広さと装飾の浴室。
だけど懐かしい場所。
「還って来た…」
湯船に浮いたまま噛み締めるように呟いた。
還って来た。眞魔国に。やっとここに還って来た。
じわりと涙が浮かんで流れる。
湯船から出てバスローブをはおった。
いつまでものんびりしてられない。早く会いたい。
その時だった。
「もう出て来れますか?」
って、扉の向こうからコンラッドの声がした。
「随分と長湯だったので心配しました」
ゆっくりと扉が開かれる。
少しずつコンラッドの姿が現れる。
ちゃんと見たいのにぼやけるから一生懸命目を擦った。
何度も擦るから見かねたコンラッドがその手を止める。
触れるコンラッドの手は夢とは違ってあたたかくてもっと触れてほしくなる。
「コンラ…ド…!」
その胸に飛び込んだ。コンラッドの背に腕を回して強く抱きしめた。加減とか考えられなくて、ただしっかりと温もりを感じたくて……
それはコンラッドも同じだったのかな?いつもより苦しいくらい抱きしめられていたから。
「会いたかった…!」
コンラッドの言葉に頷くしかできない。
「もう勝手に還るのは許しませんよ」
「……ん…」
胸がいっぱいで何も口に出来なかった。
今はただ触れ合いたい。それだけ。
コンラッドが優しく囁く。
「。おかえりなさい」
「ただいま。コンラッド」
そっと体を離すとあたしたちは唇を重ねた。
コホン!
浸っていて気付かなかったけどコンラッドの後ろには誰かいるみたい。
コンラッドも気付いたらしく苦笑して振り返る。
「すいません。一瞬忘れてました」
コンラッドでいっぱいだった視界が広がった。
そこにはみんながいた。いつもお世話になっているメイドさんや兵までも。
「おかえり」
「遅い!待ちくたびれたぞ」
ユーリと相変わらずのヴォルフ。
「あぁあーさま!このギュンターまたお会いできて幸せです!!」
「……おかえり」
鼻血をこらえるギュンターに眉間に皺がないグウェン。
「姫―!おかえりー。やだわ、ちょっと痩せたんじゃなぁい?」
「わっぷ…グリ江ちゃん、ただいま―!!」
ヨザックからは熱い包容付き。あたしも抱き返す。
コンラッドも今回は多目に見たのか黒いオーラは出なかった。
「今日はお祝いだな!!」
ユーリの一言にみんなが沸き上がる。
もう一度みんなに向かって
「ただいま…!これからもよろしくね…」
歓声が上がりヨザックからはまた抱きしめられた。
スタツアした場所は偶然にもあたしの部屋のお風呂だったから着替えは揃っていた。
地球では着ないドレスに袖を通す。些細なことにも嬉しくなる。
「へぇーその巫女にはあたしの場所が分かるんだ。みんな待ってるからどうしてかと思ったよ」
「ウルリーケから連絡をもらって慌てて駆け付けたら気配がしたんです。俺にはだってすぐ分かりました」
ユーリ主催であたしのお祝い会を開いてくれるという。
コンラッドのエスコートで会場へと向かいながらあたしがいない間のことを聞いていた。
「ウルリーケがに会いたいと言っていましたよ」
「ホント?あたしも話してみたいな」
扉の前でふいにコンラッドが立ち止まる。
「、ちょっと待って」
胸ポケットから取り出したものに頬が染まる。
「持っててくれたんだね」
「だと思って肌身離さずね」
器用にあたしの髪にリボンを結ぶ。
「ちゃんとあなたの想いもいただきましたから」
「あ、あれね。恥ずかしいな」
「俺も同じ気持ちです。あなたを愛してる。どこにいても」
臆面もなくきっぱりというから照れるけど
「あたしもコンラッドのこといつも思ってたよ。…大好き」
微笑みながらコンラッドはノブに手をかけてゆっくりと開ける。
「本当ならを独り占めしたいけどもう少し我慢しますね。みんなのへの気持ちも分かりますから」
扉の向こうにはたくさんの人がいた。
みんなの笑顔と拍手にぐっと泣きそうになるのをこらえる。
「みんなが好きなんですよ」
コンラッドが駄目押しのように言うから我慢出来なくて泣いてしまった。
みんな、ありがとう。
大好きだよ。
〜〜fin〜〜