さようなら眞魔国 V
遠くで声がする。
コンラッド……?
「早瀬大丈夫か!?」
ぼんやりとした頭が急にクリアになる。
目に映る人はコンラッドじゃないし眞魔国の人でもない。
地球の、あたしの彼氏だ。
「南野くん…」
「お前なぁびっくりさせるなよ。来たら噴水に落ちるとこだったから慌てたぜ」
「え……?」
「それじゃあ遊びには行けないな、一旦帰って出直そうか」
随分とあっちにいたのに地球ではあたしがスタツアした時から時間は経っていないみたい。
「びしょ濡れだな。これ着ろよ」
彼から上着を借りてはおる。
コンラッドじゃない匂い。ジンと目の奥が熱くなる。
「これ早瀬のリボンか?」
南野くんが噴水に漂うリボンを拾いあげた。
「そう!!あたしの!」
ひったくるようにして手にしたリボンはコンラッドから貰った宝物。そしてあの日々が夢じゃないことを確信した。
「ごめん。今日は帰るね。具合悪くなってきたし」
「大丈夫か?送るよ」
「いい、一人で帰れる」
リボンを握りしめてその場から歩き出した。
端から見るとどうなんだろうか。全身ずぶ濡れで泣きじゃくる女。
……変だな、なんてどこか冷静な自分もいておかしくなる。
「!!どうしたのその格好!デートじゃなかったの!?」
お母さんがいるの忘れてた……
あっちの世界のこと説明するの大変だから噴水に落ちたとだけ言ってお風呂へ向かい熱めのシャワーで冷えた体を暖める。
「スタツア、しないかな…」
浴槽に湯を張りのぼせるまで浸かった。
心配したお母さんが来なければまだ入ってたと思う。
ごめんねお母さん。
久しぶりに会った筈なのにあたしはあっちに還りたい。
コンラッドに会いたいの。苦しくて寂しくて壊れそうなの。
ごめんね…親不孝だね…
でもこれで最後なんて嫌だ。どうせならちゃんとお別れしたかったよ。
「ふっ……うぇっ…ふぅっ……」
リボンを握りしめて遠い世界へいる彼を思い出す。
流した涙がリボンに染みをつくる。
結局三日間学校をサボった。
久しぶりの学校は笑って過ごした。顔の筋肉が引っ張られたようにして笑顔をつくる。
笑う気分じゃないのにまるで義務のように。
「!ボーッとしないでよ」
肩を叩かれて我に返る。
「あんた今日異常なくらい水を凝視してるよ」
友達が指差す先には掃除用の水が入ったバケツ。
もう何度も試したのに諦めきれないのか。
おかしくて笑ってしまう。そんなあたしを友達が怪訝な顔で見てる。当たり前だよね。
「よ!」
校門前によく知った顔が待っていた。
こっちで唯一眞魔国のことを話せる人。
「ユーリ…」
彼の側にいつもいたコンラッドが見えた気がして涙が浮かんだ。
「ごめん。借りてくな?」
ユーリが友達に声をかけてあたしの手を引っ張った。
……明日いろいろ言われそう。
「女子高で待ち伏せって恥ずかしいなー」
ベンチに座って溜め息をつくユーリに笑ってしまった。
「元気ないじゃん」
「そりゃあね…」
「コンラッドもさ、そんな顔してた。コンラッドだけじゃなくてヴォルフラムもグウェンダルもギュンター、ヨザック、皆元気なくてさ」
ユーリが眞魔国を思い出し遠い目をする。
「皆が還って来るの待ってるぞ」
「でも…還れない」
「わかんねぇだろ?が眞魔国に来たのはあの国に必要だからだろうが。俺たちの仲間だろ?」
「……ユーリ」
「皆調べてる。俺みたいに行き来できるように頑張ってるから諦めるなよ。コンラッドに皆に会いたくないのか?」
ふるふると首を振って結っていたリボンをとる。
「これね、コンラッドにもらったの。もう一本ねあっちのあたしの部屋にあるはずなんだ」
「ああ。似合ってるよ」
「ふふ、ありがと。でね、ユーリが次にあっちに行ったら向こうのリボンをコンラッドに渡してほしいんだ。あたしが還るまで預かっててって」
「わかった」
「後ね、コンラッドに大好きって伝えて?」
「げっ……恥ずかしいなぁ…分かったよ」
「ありがとう。ユーリも大好き」
にっこりと微笑むにユーリも笑い返す。
それからすぐユーリはスタツアした。
はそのことは知らないのだが。
あたしがまた眞魔国へ行くことが出来るのか分からないけど信じてる。
仲間を、自分の運命を。
あたしは必ず還ってみせるから。
〜〜next〜〜