さようなら眞魔国 U
「ちょっと待ったぁ!!」
「い・や・で・す」
にこにこしながら距離を縮めてがっちりと腰と背に腕を回される。
「コンラッド!やだってば!!」
暴れようにも身動きすらとれないから声だけ。
最近のコンラッドはところ構わずベタベタしてくる。今みたいに廊下だろうと何だろうと時と場合と場所を考えなくなった。
まぁ前から構わないところがあったが。
「はーなーせー!」
何とか離れないものかとコンラッドの胸を押したつもりだけどやっぱりビクともしない。
「あれ?諦めました?」
頭上からする楽しそうな声に腹が立った。
文句を言ってやろうと顔を上げたけれど目に飛び込んだのは寂しそうに笑うコンラッドだった。
最近よくこんな顔をする。
「ねぇコンラッド。何かあったの?」
何度聞いても返ってくる返事は
「いいえ。何もありませんよ」
の笑顔付き。
「ただあんまりが可愛いからどうしたもんかと考えてまして」
嫌な予感。
コンラッドの瞳が獲物を見付けたように爛々と輝いた。
「こんな密着したら大変ですよねー」
「……な、なにが?」
「言ったら引かないかなー。アレです。男の下半身の事情…」
「馬鹿!変態っ!」
「えー?誰のせいだと思ってるんですか。が可愛いから悪いのに」
そう言うとの両頬にチュッチュッと何度もキスをする。
「あぁもう可愛いなぁー」
「やだコンラッドが変になった…!」
「んーホントに可愛い…!」
「ちょ…廊下だって!やめてってば!!!」
「あはは。嫌です!」
…うまく誤魔化されたのかな?
コンラッドの様子が変になってから奴は風呂場にまで連いて来るようになった。
一緒に入ろうとうるさくて毎回きっちり拒否している。
まだここらへんの常識は残っているらしく渋々ながらも引き下がるから良かった。
一日べったりとついて回るコンラッドから解放される唯一の時間。
「さぁてのんびりしよーっと」
釦に手を掛ける。
「、早く済ませてくださいね。俺の相手をしてくれないと寂しくて死んじゃいますよー」
「あんたはいっぺん死んだ方がまともになるかもね!」
確かに一人にはなれる。でも扉を挟んで向こうにはコンラッドが控えている。
なんでここまでついて回るのかには分からないが中に入られるよりはマシだとそれを許可するしかなかった。
「あ、リボン取らなきゃ」
髪を結っていたリボンを解き近くの桶に入れて髪と体を洗う。
リボンはコンラッドがプレゼントしてくれたもので上等の絹で作られている。
結構気に入っていて毎日のように飾っていた。
「はぁ〜…気持ちいいなぁ〜」
魔王専用まではいかなくてもこの風呂場も広すぎるくらいだ。
は思う存分満喫し浴槽から出た。
「あーあっつい」
扉の向こうからはずっとそこにいたのかコンラッドの声がした。
「終わりました?冷たい飲み物用意してますよ」
「うん。すぐ行くね…っとリボンリボン」
桶から取り出して扉へ向かおうと歩き出したの手からリボンがひらりと舞う。
そして湯に浮かんだ。
「やだーもう…」
膝丈のワンピースの裾を持ち上げてリボンへと近付く。
底から小さな気泡、それが段々と大きくなりグイッと体を引き込まれる。
「やだ…!何よこれ!?」
この浴槽は底無しじゃなかった。
でも底に黒いブラックホールが見える。
「待って…これってもしかして…」
扉へと顔を向けて叫んだ。
「コンラッド!!」
最後まで扉から目を離さずにいたけれどついにコンラッドの姿を見ることはできなかった。
コンラッドがの声のすぐ後に扉を開けたがそこには誰もいなかった。
浴槽の湯には名残か気泡が浮かんでいて、それも徐々に消えていった。
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