「コンラッドー!!!」

その怒号は城中に響き渡った。きっとほとんどの者が驚いたに違いない。
それを発した人物は双黒の姫君で、怒鳴られたのは元殿下のウェラー卿コンラート。
彼は爽やか好青年を地でいく男。怒鳴ることも怒鳴られることも無縁のような男、なはず。しかも二人は恋人同士なはずだ。

「もー怒った!毎朝毎朝寝起きセクハラすんな!盛るなー!!」

顔を真っ赤にして怒る姫に顔色ひとつ変えず無駄にキラキラさせながら彼は微笑んだ。それが余計に怒りを煽る。

「ただでさえ朝が弱いのにそんな起こされ方して気持ち良く目が覚めるとでも思ってるわけ!?」
「気持ち良くなかったですか?」
「ま、真顔で言うなー!」

拳を振り上げるが簡単にかわされてしまう。

「そんなに怒ることないでしょう?」
「嫌だっていうこと毎日やられればこのくらい怒るに決まってるでしょうが!」
「じゃあ起きていればいいじゃないですか。起きていればなにもされず、じゃあ食堂に行きましょうで済むんですよ」

さももっともなことを言ってるようで一瞬考えこむ。が、すぐ我に返った。

「嘘だ!どうせなんだかんだ言ってセクハラするに決まってるもん!」

そんな心外です、なんて顔するな!

「信用ありませんね」
「なくしたのはコンラッドだよ」

つん、とそっぽを向いてベッドから降りようとすればそれにさっと反応して右手を差し出された。

「…………」
「どうしました?」

極自然にエスコートする所作ができるところは尊敬に値します。でも生粋の日本人は慣れてないからどうしていいかわからない。
ぐずぐずしていると手をとられた。

「今日の服は俺に選ばせてくれますか?」
「……まともなものなら」

照れ隠しの憎まれ口に笑ってクローゼットの前に立った。


「あーら姫。可愛いかっこ」
「おはよ。グリ江ちゃん」
「隊長が嫉妬に狂いそう。メイド服なんて」
「嫉妬に狂いそうというかコンラッドが選んだんだけど…」

コンラッドが選んだ服は黒のメイド服。やや胸元が開き気味で気になるけどスカートは膝下だ。

「俺のメイドに気安く話しかけるな」

かしゃん、と剣を鳴らし近付くのはウェラー卿コンラート。

「おおこわ。姫も奇特な方ね。こぉーんな恐ろしい男と付き合ってるなんて」
「やかましい。剣の錆になりたいのか?」
「ご辞退申しあげまーす。その調子で姫の周りの駆除をしてきたんでしょうけどこの格好じゃしかたないってもんよ?」
「俺が見たいんだ」
「わがままー」

ひらひらと手を振って去っていくグリ江ちゃんを見送ってコンラッドに振り返る。そこには変わらず優しい笑顔。

「グリ江ちゃんともう少し話したかったのに」

その言葉に少しだけ眉を顰めて近付く。

「我儘だと思われるでしょうがを俺だけのものにしたいんです」

跪きスカートの裾にキスをする。

「姫をお守りするのは騎士の役目ですし」
「今のあたしはメイドだよ?」
「そうでした。俺のメイドでしたね」

立ち上がり腰に手をやり強引に抱き寄せる。

「じゃあさっそく奉仕してもらおうかな?」
「げ!」
「俺専属のメイドは君しかいないから仕事内容は完璧に覚えてもらわないとね。躰で」
「あ、いや、あの」
「その前に君の躰を知らなきゃいけないな」
「え?あの、ご主人様?」
「そそるね、その響き」

今にもいただきますされそうで危機一髪なところへダカスコスがやって来た。

「か、閣下!」

こういう時にウェラーー卿の邪魔をしてはならない。これは血盟城内では暗黙の了解。しかし兵士にはそれが理由にはならない。
伝令など正確に伝えなければグウェンダル閣下か汁王佐に厳しいお叱りを受ける。

「……何の用だ」
「ひっ!」
「コンラッド!凄まないの!ダカスコスさんどうしたの?」

こういう時を邪魔すれば確かにウェラー卿の機嫌は最悪になるが、姫が一緒だとこうして助けてくれる。

「は!至急陛下の執務室へ、とのことです」
「お仕事だって。ご主人様」
「俺にはあなたの秘密を暴くという仕事が」
「馬鹿なこと言ってないで仕事してきなさい!」

有利の執務室の方を指差し厳しく言い放つにコンラッドは渋々腰に回した手を離した。

「手厳しいな」
「お仕事でしょ?」

その言葉に明らかにやる気のなさそうな顔でため息を吐くものの一応仕事に行く気にはなったようで。

「わかりました。早めに済ませるので俺の部屋で待っててくださいね」
「えー、つまんない。メイドごっこしたいよ」
「俺の仕事が終わったらいくらでも」
「それって楽しくなさそう」
「楽しいですよ?」

胡散臭く笑ってまた抱き寄せる。

「ぎゃっ!?」

ちりっと走る痛み。満足そうなコンラッドの顔。

「こらっ!見えるところに付けるなあ!!」
「これで部屋に戻るしかないですね」

首筋から胸元にかけていくつかの紅い花が咲く。抵抗しても力では敵わなくて、痕を残される度に力が抜けていく。
正直に言えばコンラッドの行動が本当に嫌なわけじゃない。そりゃ見えるところに付けられるのは困るけど。
だから抵抗も形だけになってしまう。

「おとなしく待っていないと悪いメイドにはお仕置きだよ?」
「肝に銘じておきます」
「よろしい」

少し前を行くダカスコスの頭が赤く染まっているのに気付いて急に恥ずかしくなって背を向けた。

「あ、」

ふと気付いてコンラッドの方を向けば背筋をぴんと伸ばして廊下を歩いてて、その姿に愛しさなんてものが込み上げる。

「…っ。だ、旦那様!」

驚いたように振り返ったコンラッドに少し引き攣りつつ笑顔で言った。

「いってらっしゃいませ。…早く帰ってきてくださいね?」
「………ああ」

顔に全身の血が集まってくる感じがして今度はが背を向けて走り出した。

「……まいったな…」

残されたコンラッドは、緩む口元を右手で押さえながらしばらく彼女の姿を見送って、また歩き出した。

「やれやれ。これはお仕置きだな」
「は?なにか?」
「…いや。なんでもない」

今から仕事に向かう主人をそんな可愛い顔で見送って、仕事が手につくわけがないだろう?
今日はメイドの教育に忙しい日になりそうだ。



〜〜fin〜〜