いつも被害に遭うのは自分だと思う。
任務から戻って自室の扉を開けてみれば、そこには当たり前の顔で双黒のお姫様がいた。
こっちはくたくたで、すぐにでも休みたいというのに………
「おかえり!」
可愛らしく笑って迎えてくれるのはとっても嬉しいんだけど。
「………なあにしてんのかなー?姫は。ここ、グリ江の部屋。それ、グリ江のベッド」
あろうことか人の寝台に寝転んでいて、無防備に笑う少女に脱力感を覚えた。
自分に懐いてくれるのはすごく嬉しいし、光栄だ。だがこんなところを奴に見られでもしたら命がいくつあっても足りない。
「一応、オトコだしー少しは警戒心を持ってもらえない?それともグリ江に魅力がないのかしらあ」
「友達なのにー?」
「…………」
……姫?笑い事じゃなくてね?
確かに姫のことは大事だと思ってますよ?眞魔国では高貴な存在で、魔王陛下の友人で、元上司兼幼馴染の恋人で。
だから懐かれて嫌な気はしないけど、男ってみんながみんなグリ江みたいじゃないの。いつ何時、ケモノに変わるかわからないんだから。
ここはひとつ、男ってものを教えるのも友人としての務めかもしれない。
それに、こうも信用されてると裏切りたくなるというか。苛めたくなるというか。
「ああ、ちくしょう。襲ってやろうかな」
低く呟いた言葉に姫が固まる。
演技はお手のもの。伊達に女装してないわよ?
じりじりと迫ると寝台の隅に逃げる。
「グ、グリ江ちゃん?お顔が怖い…よ?」
「姫が悪いんですよ?男の部屋で、しかもベッドに寝てるなんて誘ってるとしか思えない」
「誘ってない!!そんなことしたつもりないから!!」
「どうだか」
「わあー!ストップ!!顔近いってば!!」
…面白いな。青くなったかと思えば赤くなる。
「大丈夫。隊長には内緒にしておきます」
「そういう問題じゃない!!」
細い腕で必死に俺の胸を押す。本気の男だったら、その抵抗は無意味だ。
「どうして逃げるんですか?めくるめく官能の世界へお連れしてあげますよ?」
ふっ、と耳に息を吹きかけると小さく体が跳ねた。あらら?耳が弱いのねえ。
小さく丸まった体が震えている。もう十分わかったかしら?
「なあんて、ね!びっくりし……」
いつものスマイルを浮かべて姫の顔を覗き込んで言葉を失った。
漆黒の瞳から零れ落ちる雫。
「あ、……姫?」
「…グリ江ちゃんの、バカ…っ」
そういうと姫は本格的に泣き出した。
あろうことか一番ばれて欲しくない相手の名前を呼びながら。
「姫!!冗談だから!お願いだから泣きながら隊長呼ばないで!!グリ江殺されちゃうぅ!!!」
「コンラッドー!!うわあああああん!」
「嘘だって!姫とグリ江は友達でしょ!?」
「コンー!」
泣きたいのはこっちだっつーの!
泣き出した姫を宥めていると荒々しい靴音が部屋の前で止まり、次の瞬間扉を蹴破ってソレはやって来た。
「…何をした……?」
粉々になった扉の残骸を呆然と見つめていると胸倉を掴まれて無理矢理に目線を合わさせる。
「や、やっほー…たいちょ」
「に何をしたと聞いている」
「やだなあ。何もしてませんって。するわけないでしょうに」
「何も、だと?」
国中にいるウェラー卿信者に見せてやりたいね。その怖い顔。
常々思ってたけど、坊ちゃんより魔王の素質あるんじゃないか?
「貴様」
「ぐええええ!苦しいって、締まってるって!」
「を泣かせておいて命乞いか?」
「だから、教えてただけだって!」
何とか隊長の手から逃れて距離をとる。姫は涙を浮かべたまま固まっていた。
「あんまり無防備すぎだろうが。俺ならいいけど下心ある奴なら部屋に訪ねて来た時点で食われてる!無事じゃすまないぞ!」
渋い顔で姫を見る隊長に、また姫の体が跳ねた。
「…何度も言ってるでしょう。俺以外に気を許すなと」
「グリ江ちゃんでも?」
「駄目です。むしろあんな男は記憶から抹消してください」
「ひでえ!」
こっちは友人として嫌われ役を買ってだな。ああもういいや。あとは隊長がお守りやってくださいよ。
「こんなに泣いて。可哀想に。怖かったでしょう」
姫に向けられていた優しい眼差しがこっちを見るほんの1秒足らずで氷の瞳に変わる。
「忠告感謝しよう。だがやり過ぎだ」
「そうでもしないとわかんないだろ?」
「だとしても、手荒すぎる」
目線は俺に向けたままで、姫を抱き寄せる。すっぽりとその小さな体が包まれた。
「お前を今すぐにでも消したいがそんなものをに見せたくはない。今しばらくその命預けておこう」
「そりゃまた気の長いことで」
「勘違いするな」
冷たい微笑みを浮かべて隊長が言い放つ。
「が優先だ。落ち着いたらお前の番だからな」
「…………っ!!」
姫に優しく言葉をかけながら扉の残顔を踏み越え出て行く後ろ姿を俺は忘れない。
〜〜fin〜〜