そりゃあお返しは三倍返しだっていうけど眞魔国の面々にそれを求めてはいなかったのよ?
だからホワイトデーのことは頭になかったの。

「おはようございます。姫」
「え?コンラッド?」

いつも起こしにくるのは彼だから部屋にいるのは驚かないけどその格好はなに?
いつもの軍服じゃないスーツ姿。

「ホストのコスプレ?」

素晴らしくはまっている。

「姫」
「ちょっと待って。姫ってなによ。いつも名前で呼ぶでしょ?」
「今日は貴女の下僕だから。手となり足となり使ってください」
「はああ!?」

パチンと指を鳴らして入ってきたのはヨザック。彼もまたスーツ姿で手には服とボックスを持っていた。

「さあお姫様。着替えとお化粧しましょうか」
「え!?ええ!?ヨザックまで?」

なにがなんだかわからない。これってなんの遊び?

「チョコレートのお返しです。姫とグレタ姫に今日は俺たちと陛下、グウェンにヴォルフ、ギュンターがお仕えします」
「ええ!?」
「姫君たちの専属ホストってわけですね」
「えええ!?」

ヨザックから今日の衣装を受け取ったコンラッドがあたしのそばで膝をついた。

「では姫。お召し替えといきましょうか。ヨザ出ていろよ」
「りょーかい」
「やっ!自分で着替えるってば!!」
「そんな。姫はどうぞごゆっくりしてください」
嬉々として見えるのは気のせいじゃないはず。

「白い肌に黒のドレスがよくお似合いですね」
「うひゃあ!」

背中に感じたコンラッドの唇に体が震えた。

「さあしまわないと。こんな綺麗な肌、他の男に見せるなんてもったいない」
「コンラッドも見ないでよ!」
「俺が見ないと姫の肌の調子がわからないじゃないですか」
「あたしがわかってるからいいの!」
「背中なのに?」

くすくすと笑いながら手早くファスナーを上げ、靴を揃えた。

「さあ次はヨザックの出番です」

鏡台の前で畏まるヨザック。コンラッドが椅子を引いてそれに腰掛ける。

「ご指名ありがとうございます。ヘアメイク担当、ヨザックでーす」
「ええ?グリ江ちゃんがやってくれるの?嬉しい」
「そうよおー…って今日はグリ江お休みなんですよ。ヨザックで勘弁してくださいね」

ヨザックが器用に髪を結い上げる。手の感触が気持ちいい。
鏡の中から見える背後ではコンラッドが微笑みながら立っているのが見えた。

「そこで見ているつもりなの?」
「俺ですか?できたらそうしたいんですが、邪魔ですか?」
「邪魔じゃないけど」

ずっと見られるのも恥ずかしい。

「俺はしか指名できない専属ホストなのでそばにいさせてください」
「良かったですねー姫。隊長になんなりと我儘言ってやってくださいね」
「我儘ねえー」

そうこうしているうちに髪は綺麗にまとめられていく。
次に薄くお化粧をしてもらって。

「はい。仕上げは口紅だけ」

そう言ってヨザックが後ろも見ず投げたものをコンラッドがしっかりキャッチした。

「え?」

コンラッドが手の中にあるものを見て驚いている。

「なに?どうしたの?」
「特別に参加させてやろうと思いまして」
「……初めてなんだが…」

漸く見えたそれはパールピンクの口紅。

「まずこの筆で紅をとって…」

ヨザックの講義を真剣に聞くコンラッド。今からあたしに塗るんだよね。コンラッド、初めてなんだ…ってあたしも初めてだよ!!

「姫。失礼します」
「お、お願いします」

二人とも緊張して顔が強張ってる。コンラッドが少し屈んであたしの顎を上げさせる。すっごく顔が近くて、ものすごく恥ずかしくなった。

「そんなに照れないでくださいよ。こっちまで照れる」
「仕方ないじゃない」

なんとか塗り終わってヨザック先生のチェックが入る。

「少し濃いんじゃないか?」
「そうかな?」

なんて出来について会話している。あたしは顔が熱くて手で扇いでいた。
なんとか落ち着きだしたのに急に顔を上に向かされて、何かと思う間もなく触れるコンラッドの唇。

「こんなものか?」
「オッケー」

コンラッドはティシュで自分の唇を拭きながらあたしの顔を覗き込んだ。
そして魅惑のスマイルを見せる。

「綺麗ですよ。姫」

いや、褒めてくれるのは嬉しいんだけどさっき何をした?
また顔に血が上って熱くなった。

「な、ななな……!」
「ん?」
「いきなりなにすんの!!」
「口紅が濃すぎたので」
「だからって…あんな…!」
「拭き取るよりいいんじゃないかとヨザックが」

そのヨザックに見られたじゃん!!てか確信犯じゃないの!?

「ほらほらそんなにむくれないで。せっかくの可愛い顔が台無しですよ」
「姫、俺は見てないから。キスの時目が開きっぱなしだったのとか知らないから」
「しっかり見てんじゃん!!」
「まあまあ。そろそろ朝食にしましょう。みんな集まる頃ですから」

ううっ。お腹すいたし今日のとこは勘弁してやるわ。

片付けてから来るというヨザックを残して食堂へ向かおうとするとコンラッドが腕を差し出した。

「お手をどうぞ」
「あ、…うん」

エスコートされながら歩く廊下には朝日の心地いい光と鳥のさえずり、それから二人分の靴音。それだけしか聞こえなくて世界に取り残された気分になる。

「どうかしましたか?」
「なんでもないよ」

世界に二人だけだったとしてもコンラッドがいるならいいかって思ったのは内緒。
だって調子にのるんだもん。

―!!」

食堂ではお先にグレタ姫が朝食を摂っていた。両脇にスーツ姿の父親達を控えさせて。

「おはようございます。様」

優雅な振る舞いであたしの前に進み出たのはこちらもスーツで決めたギュンターとグウェンダル。

「わああ…かっこいいー!」

思わず出たため息に慌ててコンラッドを見上げた。

「さあ、朝食にしましょう」

にっこりと笑って席へとエスコートするスマートさ。もちろんギュンターやグウェンダルとは比べられないほどかっこいい。

「今日ね、ユーリもヴォルフラムもずっと一緒にいてくれるんだって!いっぱい遊んでくれるんだって!」
「良かったね。いっぱい我儘言っちゃうといいよ」
「えー、いいのかな?」
「だって今日はグレタが一番な日でしょ?」

ちらっとユーリとヴォルフに目をやると少々困惑気味に笑いかけてきた。まあグレタの我儘くらい聞いてあげるんでしょうけど。

はコンラッドと過ごすんでしょ?」
「え………?」
「コンラッドもの我儘なら何でも聞いてくれると思うなあー」
「もちろん何でも聞きますよ」

ナプキンを膝に敷いてくれながら、というかセクハラよ?

微笑むコンラッド。

「お待たせしました」

恭しくスープとパンを運んでくるギュンターとグウェンダル。
そんなことしたこともないだろうに。

「今日は姫君の身の回りのことは我々が行います」
「お前たちの…いや、姫がお呼びならば真っ先に参上致します」

そんなこと言われても困る。こんな美形に給仕してもらって頭の中パニックなのに。

「ううー!何でもって言われると余計に浮かばないよー」
「まだ一日始まったばかりだからゆっくり考えたら?スープが冷めないうちにどうぞ」

悩むのは後回しにしてまずはご飯にしよう。

「グレタは何がしたいんだ?」

金の髪の真正美少年、ヴォルフが跪き柔らかく微笑む。
て、天使がいるよ!!

「姫はご要望はありませんか?」

同じくそのままなら超絶美形のギュンターがあたしに微笑みかけた。
すっごいどきどきして鼻血吹きそう!!

「あれ…?そういえばギュン汁が出ない」
「特訓しましたからね」

横でコンラッドが可笑しそうに笑った。

「この計画を考えてから毎日、ユーリを犠牲にしてちょっとやそっとでは出さないようにね」
「おお。思い出したくもないぜ…」

ユーリが虚ろな目で遠くを見るのを見て憐れだとか頑張ったねとかそういった気持ちより先に笑いが込み上げた。

「笑うなっ」
「あははは。ご、ごめん」

その光景が目に浮かぶわ。

「ねえ。なにかお願い事思いついた?」

不安そうに抱きつくグレタの頭を撫でながら首を振った。こんなことそう何度もないのだからとんでもない我儘言いたいんだけど。

「あのね、グレタね、みんなでお出かけしたいの」
「お出かけ?」
「うん。ニコラの赤ちゃんに会いたいし、街にも行きたい」

瞳を輝かせて語った後、俯いて泣きそうな顔になった。

「でも、危ないもんね」

この子は一体いくつのものを我慢してきたんだろう。今日だけはどうしてもこの願いを叶えてあげたくなった。

「それ、あたしも賛成。いいでしょ?」

渋い顔をする年長者二人。父親達は目配せしあってるけど気持ちは固まったみたい。
ヨザックは面白そうに笑っていて、コンラッドはこうなると思ったって顔してる。
もう少しだ。ギュンターとグウェンを落とすにはコレしかない。

「「お願い!」」

グレタとあたしからの瞳うるうるお願い光線にギュンターは今日初めてのギュン汁を吹いて倒れた。

「…単独行動はしないと約束できるな?」
「する!します!」
「グレタ約束守るよ!」
「お前は?」
「へ?俺?」

自分には関係ないって顔していたユーリは急にふられて目を丸くした。

「なんで俺?」
「…お前はなんでも首を突っ込みすぎる。本音は達よりお前が暴走しないかが心配だ」

ごもっともな意見にユーリも反論できず。

「兄上、僕が見張っています」
「お前もいたな…」

自信満々に発言したヴォルフを一瞥してグウェンはコンラッドとヨザックに振り向いた。

「あまり護衛をつければかえって目立つ。兵を一般人に紛らせておくが護衛はお前達に任せるぞ」
「え?グウェン達は来ないの?」
「私達が行くとかえって目立ちそうですし城でお待ちしています」

残念だけど仕方ない。二人にはお土産を買ってこよう。
慌てて準備をして門の前に向かうと馬が用意されていた。

「では行きましょう。ヒューブには使者をやっておきましたから」

コンラッドが抱えてノーカンティの背に乗せてくれる。グレタはユーリと一緒だ。

「急に行って大丈夫かなー?」

馬に揺られながら後ろのコンラッドに訊ねる。いきなりだもん。街にも行かないといけないからスケジュールは慌ただしい。朝っぱらからの訪問はさすがに迷惑なんじゃないかな?


「大丈夫。ニコラもヒューブも喜んでくれるよ。それに魔王陛下の訪問を嫌がるものはいないさ」
「そうかな?ならいいけど」
「それと今日は姫も主役なんですから人のことばかり考えるのはやめて甘えてくださいね」

城から出るのにスーツ姿じゃ目立つと普通の格好にはなってるけどホスト役は健在。

「じゃあね、街に行ったらコンラッドのおすすめのお店でお茶したいな」
「俺のおすすめは庶民的ですよ?」
「それがいいんじゃん」
「はい。了解しました」

くすくすと笑うコンラッド。その雰囲気が心地よくて暖かかった。

ニコラもヒューブもにこやかに出迎えてくれたんだけど残念ながら赤ちゃんは眠っていて一緒に遊ぶことは出来なかった。

「可愛いですねえ」
「ホント。手なんかこんなにちっちゃい」
「グリ江もいつかこんな可愛い赤ちゃんが欲しいわあ」
「産むの!?っていうか魔族ってどうなの?男の人でも産めちゃうの?いつかはユーリも産むの?」
「俺は産めないって!」
「んじゃあヴォルフ?」
、いくら魔族でも男には無理だ。僕もユーリも産めない」
「ざんねーん」
「グレタも弟か妹欲しいなー」
「グレタの弟妹は無理ですけど甥か姪なら近いうちに。ね?」

爽やか笑顔でなにを言うか。この男は。

顔が熱くなってきたでしょ!!
ていうかみんなにやにやしすぎ!!

「う、」

う?と、みんなが注目する。

「産まないんだからー!!」

その場をダッシュで逃げ出した。

「早く来ないと一人で街まで行っちゃうんだからね!!」
「姫!それは困ります!」

コンラッドの足に敵うと思ってないけどまさかすぐ腕に囚われるとは思わなかったなー。
グリーセラ邸の廊下であっさり捕まった。

「運動不足か…」

こっちは息を切らせてるのに余裕なコンラッドが少し妬ましい。

「結構早かったですよ」
「お世辞が嫌味よ」
「…そんなに嫌ですか?」
「は?」

後ろから抱きしめたまま、耳元で囁く。

「俺の子を産むのは嫌ですか?」

はいいい!?
何とも答えにくくて黙っていると更に囁きかける。

「産んで欲しいと思う俺は嫌いですか?」

嫌いも何もそういうんじゃなくて

「いつか、産んで欲しい」

ひいいい!恥ずかしい!!

廊下に響くみんなの話し声に漸くコンラッドの腕から解放された。

?顔赤いよ?」
「…そ、そう?」

赤くもなりますよ。あんな………

コンラッドと目が合って思いっきり顔を反らした。

「あっらーん?なになに?姫に何しちゃったの?」
「別になにも」
「そう?あんなに照れちゃってまあ」
「可愛いだろう」
「…なに?その勝ち誇った顔」

無性に恥ずかしくてコンラッドとの相乗りを拒みヨザックの後ろに無理矢理乗り込んだ。

「姫。隊長が怖いんで早く機嫌直してくださいね」
「別に怒ってるわけじゃ…」
「わかってますよ。隊長が歯の浮くような台詞を言ったんでしょう」
「良くおわかりで。…だからしばらくかくまって」

街に着くまでには落ち着きたいよ。
前を行くコンラッドを盗み見ればユーリやヴォルフを誘導して平然としている。
視線が交わり慌ててヨザックの背中に隠れた。ノーカンティの近付く足音がする。

「姫」

下を向いたまま返事をすると苦笑が返ってきた。

「まだ照れてます?」
「……うん」
「街に着く頃には大丈夫かな?俺と二人きりになるんですが」
「え!?なんで?」

思わず顔を上げてしまった。

「陛下たちはヨザックに案内してもらってグレタの行きたいところをまわるんだそうですよ。姫は俺のおすすめに行くんでしょう?」
「みんなと行く!」
「そうですか。じゃあ少しだけ別行動でもいいですか?」
「え?」

先を行くユーリがコンラッドを呼んでいる。
ちょっと行ってきますと走る彼を見ているとヨザックが口を開いた。

「一緒にいかなくていいんですか?」
「だって今二人きりは恥ずかしい」
「でも隊長の行く店、女ばっかりですよ」
「え?」
「粒ぞろいでしかも隊長狙いばっかり」

こちらへ戻ってくるコンラッドが目に入った。

「それでも別行動するんですね?」

馬を横につけたコンラッド。彼の握る手綱を掴み自分に引き寄せて、転がるようにノーカンティに乗り込んだ。
乗り込むというより落ちかかったのを慌てたヨザックとコンラッドに引き上げられた感じだけど。

「もー、姫ったらそんなに隊長のそばがいいの?妬けちゃうわあ。じゃまた後でね」

意味深に笑って馬を進めるヨザックを見送りながら後ろにいるコンラッドに言った。

「コンラッドと一緒に行く。駄目って言われても行く」
「駄目なんて言いませんよ。むしろ大歓迎です。ただし」

真横から現れた顔に驚いてまた落ちそうになった。

「あんな危ないことは絶対しないこと」
「ごめんなさい!」

だから顔、どけて!!

街で馬から降り、ユーリたちとの集合場所を決めて別れた。

「帽子をとらないようにね」
「わかってる」

目深にかぶり直しながらも視線は左右の店に向けられる。
そっと右手を握られて、コンラッドを見上げた。

「危なっかしいので。迷子になったら大変です」
「迷子になったら捜してくれるでしょ?」
「もちろん全力で」
「なら安心して迷子になれるや」
「やめてくださいよ。心臓に悪いから」
「嘘。ちゃんとコンラッドのそばにいます。でね、あのお店入りたいんだけど」

指差したお店は雑貨屋さん。ちょっとした小物とか見るの好きなんだ。
アンティークな感じで細工も凝っててこっちの小物は可愛い。それにあたしの財布にも優しいし。

「あ、可愛い」
「どれ?」

目を引いたはティーセット。ペアのカップにティーポット。こじんまりとした花の絵柄なんだけどかえってそこが可愛い。

「じゃあそれ買いましょう」

コンラッドは店主に包むように頼んでしまう。

「え?コンラッド?」
「姫にプレゼントです」
「ねだったわけじゃないのに。ごめん」

しかも結構な値段だった。

「いいんです。俺も気に入ったしあのカップで姫の淹れたお茶を飲ませてください」
「うん。じゃあ一番に。ありがとう」

重いからと包みを持ってくれたコンラッドはそれでもあたしの手を引くことを忘れずにいた。
そして着いたコンラッドおすすめの店。
外観はレンガ作りでオープンテラスがあって、花がそこかしこに飾られたアットホームなお店だった。

「花屋もやっているんですよ」

通されたのは窓際で花に囲まれた一角。

「店の主は口が堅い男ですしここは外から見えにくいから帽子はとっても大丈夫ですよ」
「ホント?かぶりっぱなしも蒸れちゃうのよね」
「ああ、はねてる」

笑いながら髪を直すコンラッドからメニューを受け取った。

「今日の手作りケーキかー。なんだろう。あ、でも後でユーリ達とお昼食べるから駄目かなあ」
「まだ時間あるしひとつくらい大丈夫じゃないですか?」
「そうかな?そうよね。木苺のタルトもいいなあ。…コンラッドはどうすんの?」

彼はまだあたしの髪を触っていた。

「いいって。どうせまた帽子でぐちゃぐちゃになるんだし」
「そうは言っても気になる」

コンラッドの手を払っていると初老の男性がやって来た。

「いらっしゃいませ。閣下」
「ああ。久しぶりだな。今日は大事な連れも一緒なんだ。よろしく頼む」
「これはまた愛らしいお嬢様をお連れで」
「こんにちは」

「閣下が来てるって!?」

大きな声の後現れたのはここの女主人らしい。

「まああ、閣下。最近足が遠のかれたんで噂してたんですよ。あら、可愛いお嬢さん連れて。まさか閣下のいい人ですか?」
「はじめまして」
「まあまあ。これじゃあ家の娘じゃ敵わないわね。閣下も面食いねえ!」
「お前、閣下はお連れさんと静かに過ごしたいんだ。あっちへ行ってろ」

豪快に笑うおばさん。それをおじさんが窘めた。

「すいませんね。さ、注文をお聞きしましょうか」
「俺はいつもの。は?」
「じゃあ今日のおすすめセットで」
「かしこまいりました」

漸く静かになるとコンラッドが苦笑した。

「騒がしくてすいません」
「え?あたしあんな雰囲気結構好きだよ。堅苦しいのやだもん」
「それは良かった」

楽しそうに笑うコンラッドを見るのが嬉しくて、こっちまで笑顔になる。

「お待たせしました」
「わあ!美味しそう!」

運ばれたケーキは食べるのがもったいないくらいで、どこから食べたら良いのか迷ってしまう。

「おいしーい!」


甘いクリームと果物の酸味が口いっぱいに広がる。幸せ。

「お茶も美味しい。すごい気に入った」
「それは良かった。そうだ、このお茶の葉を少し譲ってもらいましょうか」
「んー。いいや」
「どうして?」
「コンラッドとまた来ればいいもん。それとも駄目?」
「まさか」

目を細めて嬉しそうに笑うコンラッドになんだか恥ずかしくなって視線をケーキに合わせた。

「今日は一段と照れ屋ですね」

声音には笑いを含んでいて、悔しいけどその通りだから反論できなくて。

「あんまり他の男がいる前で可愛い顔して俺を困らせないでくださいね」

可愛いかは別として、そんな顔させるのはコンラッドなのに。まるであたしだけ悪いみたいじゃないの。

フォークをガジガジ噛みながらコンラッドを睨んだら、彼の目線は手元に向けられていた。
テーブルの下でなにかガサガサ音がする。

「コンラッド?」

身を乗り出して覗き込むけど陰になって見えない。

「見たい?」

いたずらっ子みたいな瞳でそう訊ねる。

「じゃあ目を瞑って手を出して」
「ええー?」
「じゃあ見せない」
「………」

渋々言うとおりにすると左の手首に違和感。

「思った通り。よくお似合いです」
「わあ」

着けられていたのは銀のブレスレット。細い鎖に散らばった飾りは小さなピンクの石。

「魔石なんです。に幸運が訪れるように」
「きれーい…これ、チョコのお返しなの?」
「こんな物ですいません」
「ううん。嬉しい。あたしこそチョコだけだったのに」
「あれにはの気持ちがこもっているから最高のプレゼントなんですよ」
「ブレスレットだってコンラッドの気持ち入ってるんでしょ?だから嬉しい。ありがとう。大事にするね」

嬉しくて身を乗り出してコンラッドの頬にキスをした。

「おー。コンラッド、!こっちこっち!」
「わあー。グレタいっぱい買ってもらったのね」
「違うよ。グレタそんなにいらないって言ったのにユーリとヴォルフが勝手に買っちゃうんだよ」
「まあ、甘いパパ達ですこと!」

二人の父親はそれぞれに袋を抱えていた。まったく、親バカなんだから。

「あら、姫こそ良いもの買ってもらったんじゃない?」
「さすがヨザック。目ざとい」
「可愛いー。よく似合ってる。で?隊長の顔緩みっぱなしだけど?」
「そう?」
「他の誰の目は誤魔化せてもグリ江の目は誤魔化せません。なあにー?なにがあったのよー?」

ユーリ達と話すコンラッドは至って普通なんだけど………

「姫?隊長とナニしたの?」
「なにもしてません!」

ほっぺにちゅーがそんなに嬉しかったのか…愛い奴め。



〜〜fin〜〜